当初2DAYの予定であったネコステ山岳ラリー2019だが、日曜に選挙が行われることもあり土曜のみの開催となった。当日は早朝から快晴に恵まれ、徐々に気温が上昇していくこととなった。
SS1は、上り基調の6.5kmのコース。全体的に狭く途中側溝や大きな排水桝も現れるツイスティーな低速コースとなる。SS2は中くらいの道幅となる一般的な林道の9.2kmのコース。全般的に上り下りが少なく走りやすい林道だが、最終地点近くの側溝や、路面に苔が生えているポイントがあり注意が必要となる。そして、今回最も距離が長いステージとなるSS3は12.3km。前半の狭い低速コースから後半は中速コースへと変化していく。前半約3kmは上り主体のやや狭めの林道となるがジャンクションの手前から急激な上り坂となる。そこへ勢いをつけたまま飛び込むと、車体が浮かび上がるいわゆる「ジャンピングスポット」となる。一般観戦できるギャラリーポイントとなるため派手にジャンプしたいところだが、着地後の挙動収束や車体へのダメージを考えると走り方が分かれるポイントとなる。ジャンクション以降は中速主体で全体的に下りが多めだが広く走りやすい林道となる。
86/BRZ限定のCUP-2クラスには4台の86がエントリー。昨年のTRD RALLY CUPプレシーズンマッチから引き続きのエントリーとなる水原・中村組以外の3組は初参戦となる。TGRラリーチャンレンジにも参戦するカルロス・山本組は、ともに50代のベテランクルー。「アイテナリー的に夜の走行になることが分かってたので、急遽補助灯を装着してきました。ラリーチャレンジで塚本さんと何回か勝負したんですが、いつも負けちゃってるんですよね…今回は2位3位狙いかなぁ。」と漏らす。そして、こちらも普段はラリーチャレンジに参戦する塚本・寺田組。「これまでラリーチャレンジで装着していた足回りがハネやすくトラクションが逃げる印象がありました。そこで上位ドライバーの方にアドバイスを頂いたところ、86の純正サスペンションのフィーリングが悪くないとのこと。今回はその純正サスペンションを装着してきたので、この仕様でどこまでいけるか探ってみたいと思います」と塚本。そして、フレッシュな25歳コンビの吉原・佐野組は「クラスごとに同じクルマで勝負できるのが新鮮で面白いですね。2年前にミラージュでラリーを初めたんですが、今年から正式にTRD Rally Cup by JBLがスタートすると聞いて急いでDIYでクルマを作りました。今回、86…そもそもFRで初めてのラリーとなりますが、まずは練習のつもりで頑張ります。」と語った。
午前中にレキを終えた各車がセレモニアルスタートを経て次々スタートしていく。ツイスティな上りが続いていくSS1。今回のネコステ山岳ラリー2019の中では最も短いSSとなるが、地区戦や全日本戦を経験したことのないクルーにとっては長いステージとなる。そんな中、2年目の水原・中村組が順調な滑り出しを見せる。昨年ラリー初経験となった水原 亜利沙は今年の全日本ラリーにも精力的に挑戦し、順調に経験を積んでいる。昨年の2戦では走るたびにタイムを更新する成長ぶりを見せたが、今回はマシンを86後期型にスイッチしての挑戦。気合も十分の走りで他車を牽制した。
続く9.2kmのSS2。SS1ではマシンのフィーリングを確かめながらの走行となった塚本奈々美が本領発揮。見事な走りでトップタイムを記録した。そして迎えた12.3kmロングステージとなるSS3。途中ジャンピングスポットも存在する難関ステージとなるが、このSSにおいても塚本奈々美が全体トップタイムを記録。ギャラリーが見守るジャンピングスポットにおいては、非公式計測ながら7m近い特大ジャンプを見せた。コ・ドライバーの寺田昌弘は「あそこは飛ばないようにしようって打ち合わせしてたんです。純正サスペンションってこともありますし、せっかく良い走りをしてるからリスクは避けようと。でも、気づいたら飛んじゃってましたねぇ。その勢いがあるからタイムが出せたとも言えるかな?」と苦笑いだった。
16時からはセクション2。セクション1と同じ工程でSSを周ることとなる。依然、塚本・寺田組の勢いは止まらず、SS1の自身のタイムに対し、7秒ものタイムアップを果たした。しかしSS5に進む頃には陽も落ちはじめ、TRD Rally Cup by JBLクラスがスタートする18時頃には各車がライトを点灯しての走行となった。林道の中はさながら夜の暗さとなっていく。かつてはナイトラリーが多く開催されていたが、近年は昼間のラリーが主体となる。ゆえに夜間の全開走行に慣れていない選手達は軒並みタイムを落とすことになってしまった。塚本・寺田組も夜のSSに悪戦苦闘し、セクション1に比べ30秒近いロスを喫してしまう。SS5を終えた時点で辛うじて順位はキープしていたが、ここまでクレバーな走りを見せてきたカルロス・山本組が2秒差まで迫って来ていた。
そして迎えた最終ステージのSS6。完全にナイトステージとなったロングSSでは、ベテランのカルロス中村が経験に裏付けされた着実な走りを見せ、他車を大幅を引き離すタイムで走りきり見事TRD Rally Cup by JBL Cup2の初代ウィナーに輝いた。カルロス中村は「最近のドライバーさんはナイトラリーとか経験ないでしょうけど、私らは長いことやってきましたからね。夜が得意という訳じゃないですけど、慣れてる分その経験が活かせてよかったです。とはいえ、勝てると思ってなかったのでビックリです!」と驚きながらも嬉しい初優勝を飾った。
ヴィッツ限定クラスのCUP-1には3台がエントリー。TRD RALLY CUPプレシーズンマッチ in シロキヤラリーで好走を見せながらも涙を飲む結果となった中溝・能仁組をはじめ、TGRラリーチャレンジの前身となるTRDヴィッツチャレンジに長年参戦し好成績を納め、近年では女性のみによるラリーシリーズ「L1 RALLY in 恵那」にも参戦。チャンピオンも数多く獲得している毛受・赤木組。そして、昨年のTGRラリーチャレンジC1クラス(ヴィッツ限定チャレンジクラス)においてシリーズチャンピオンを獲得した島根・山崎組という強者揃いのメンバーとなった。島根・山崎組はできたばかりというニューマシンを持ち込んでの参戦。「いろんなことがTGRラリーチャレンジと全然違うので正直焦ってます。12kmのロングSSもそうですが、朝のレキだけで疲労困憊です(笑)チームに新しいマシンを作っていただいたので、まずは壊さないことを第一に攻めきりたいと思います」とスタート前に語った。
注目のラリースタートとなったが、SS1の速報が流れた会場にどよめきが起こる。毛受・赤木組が叩き出したタイムが、ヴィッツ限定のCup1のみならず86勢も含めたTRD Rally Cup by JBL全体においてトップクラスのタイムを記録したのだ。このタイムに闘志を燃やしたのが中溝・能仁組。勝負にかける情熱が人一倍強い二人は悲願の勝利を掴むため熱い走りを見せ、SS2では0.4秒ながら毛受・赤木組に勝るタイムを記録した。しかしロングステージのSS3においても毛受・赤木組の勢いは止まらず、どんどんタイム差を広げていく。セクション1終了時点で、Cup1の2位以下に30秒近くの差をつけることとなる。
続くセクション2。ここからの追い上げを見せたい中溝・能仁組であったが、痛恨のマシントラブルが発生してしまいペースダウンを余儀なくされる。これにより完全に安全圏に入った毛受・赤木組であったが、ペースを緩めることなく好走を続け、86勢に割り込むタイムを連発していく。そして迎えた最終SS。多くの選手が苦戦する暗闇のアタックにおいて、なんとTRD Rally Cup by JBLクラストップタイムを記録してのフィニッシュ。まさに完全勝利を飾った。フィニッシュ後、毛受広子は「12kmものステージを走る機会はなかなかないので、このラリーに参加できて本当に楽しかったです。ヴィッツのボディも疲れ始めてるので、挙動がシビアな局面もあり…勝てたのは良かったですが、なかなかハードでサバイバルな一日でした。」と笑顔で語った。
今年から正式にシリーズスタートとなったTRD Rally Cup by JBL。全5戦で開催予定の本シリーズは、昨年の南房総ラリーから引き続き、世界最大級オーディオメーカーで、家庭用オーディオ、ホームシアター、車載用などの民生機器から、世界中の映画館、スタジアム、レコーディングスタジオなどを対象とした業務用機器をラインナップするJBL(ハーマンインターナショナル株式会社、東京都台東区)によるパートナーシップを受けることとなり、優勝クルーおよびU-25 AwardのクルーにはJBL製ヘッドフォンが賞品として贈呈された。
EVEREST ELITE 750NC / E65BTNC
初心者向けラリーから中級ラリーへのステップアップの場としての盛り上がりが期待されるTRD Rally Cup by JBL。ラリー王国とも言われる群馬での開催成功を弾みに、今後の盛り上がりを期待したい。
TRD Rally Cup by JBL 2019 Rd2は5月18日(土) ~ 19日(日)に京都府京丹後市を舞台として行われるNISSIN Rally丹後2019(公式サイト)。各ステージ10kmオーバーのSS4本で競われるオールターマックラリーとなる。
※イベントレポートという性質上、文中で敬称を略して表現している個所があります。