セクション1で2回走行する石榑峠東SSは約5kmのコース。前半は広い道幅ながらきつい傾斜の上りが続くが、徐々に不規則なコーナーが連続するトリッキーなコースへと変化していく。道幅も目まぐるしく増減を繰り返し、通常走行でも困難なほどに狭い箇所も存在する。路面も所々舗装が剥がれるなど、選手の体力を奪うハードなコースといえる。東近江側からのアタックとなる石榑峠西SSは5.59kmのSS。石榑峠東とは違い、傾斜はゆるく一定のコース幅でリズミカルにコーナーが続く。しかし、中盤は長い下り坂が続く。ギャラリーが見守る大安SSは1.52kmと短めの距離だが、ほぼすべてのコーナーが90度直角コーナーで、それらを直線で結ぶ。とはいえ道幅は狭く、全開で駆け抜けるとジャンプしてしまうギャップも2箇所存在するなど侮れないコースレイアウトとなる。
86/BRZ限定のCUP-2クラスには、本シリーズ始まって最大となる6台もの86が出走した。前戦丹波で優勝を飾った期待の若手タッグ奥本・谷﨑組を始め、水原・中村組、カルロス・薮本組。今回コ・ドライバーを変更しての参戦となった吉原・藤上組が引き続きエントリー。ここに殴り込みをかけたのが、和歌山から参戦の上林・森組と、愛知の高木・安藤組。上林・森組は今年から86でTGRラリーチャレンジに参戦しているが、前戦恐竜勝山戦でリタイヤを喫してしまう。そのリベンジの意味合いもある参戦となったが、気合は充分だ。高木は実力者揃いのJMRC中部からの刺客としての参戦。シビックで地区戦に参戦している高木だが、今回急遽86を仕上げての参戦となった。その実力を見せつける走りに期待したい。また、コ・ドライバーの安藤はTOYOTA GAZOO Racingチームから全日本ラリー選手権JN2クラスに参戦中。目下、全戦クラス優勝の快挙を続けている。
SS1で飛び出したのは、勢いに乗る奥本・谷﨑組。後続に10秒近くの差をつけてのフィニッシュとなる。初めて走るコースであっても1本目から確実にタイムを出してくるのがこのペアの強みだろう。その後、吉原・藤上組、高木・安藤組と続く。吉原・藤上組は、普段コ・ドライバーを務める佐野とは異なるペースノートリーディングということもあり、ペースを上げきれず、林道コースでタイムが伸び悩むこととなってしまう。一方、高木・安藤組においても「一本目のSSであっても、最初からタイムを出せる走り方・ペースノートの熟成が必要ですね。高木選手はまだちょっとその辺りのコントロールにムラがあるので、抑える所で抑え過ぎてしまう。今回のいなべ東近江ラリーで修行できれば」と語るのはコ・ドライバーの安藤。
続くギャラリーステージでは、インカットした衝撃でマッドフラップのステーを車体に巻き込みながらも吉原・藤上組がトップタイムを奪取。しかし、後続の奥本組、高木組も約1秒差に収まる。SS3は2本目となる石榑峠東SS。路肩から巻き上げられた砂利で路面状況はさらにスリッパリーとなり、難易度がさらに上がっていく。しかし奥本・谷﨑組は相変わらずの安定感でタイムアップの走り。吉原、高木もタイムアップに成功。高木に至っては11秒ものタイムアップを果たした。
東近江側からのアタックとなるSS4で状況は大きく変化する。高木・安藤組が奥本・谷﨑組に6秒差をつけるトップタイムでフィニッシュ。「ブレーキやラリータイヤなど、いつもの車両との違いがやっと掴めてきました」と語る高木。セクション2で巻き返せるかがポイントとなる。
サービスを挟んでのセクション2はギャラリーステージ2本と石榑峠西SS1本。奥本組と高木組のギャップは10秒ほどだが、高木が調子を上げてきているだけに一つのミスが大きく左右する。勝負の決め手となるのは、やはり石榑峠西SSだろう。差がつきにくいSS5のギャラリーステージで奥本組に1.5秒差をつけ勢いに乗る高木組。SS4と同様のタイム差をつけることができれば逆転もありえる展開だったが、自身のタイムから3秒遅れでのフィニッシュとなった。一方で奥本・谷﨑組はペースを崩すことなくタイムアップしてのフィニッシュ。奥本・谷﨑組は最終SSも落ち着いた走りをみせ、見事連勝を決めた。また、林道ではタイムを上げきれなかった吉原・藤上組であったが、このSS7で再びクラスベストのタイムを記録し存在感を見せた。
ヴィッツ限定となるCUP-1クラスは2台が出走。圧倒的スピードで実力を見せつけ、チャンピオン獲得に向けて躍進中の毛受・赤木組に対し、独走を止めたい他チームからのマークはさらに強まった。今回、毛受・赤木組に対抗する中溝・能仁組は初戦ネコステラリーでマシンにダメージを負い、悔しい思いをした。そのリベンジを果たすため気合も十分だ。また、その思いに応えようとチームも一丸となって支える。
前戦の丹後ではマシンバランスのフィーリングが合わず序盤から苦戦した毛受だったが、今回はフィーリングも合い、いわば「乗れている」状態。SS1を終えて手応え十分の毛受。これまでの展開であれば、他車に対して大きなマージンを期待できる走りであったはずだが、続く中溝・能仁組がなんと0.5秒差に迫るタイムを記録する。毛受の3戦連続優勝は回避したい中溝・能仁組にとって、なんとしても差を詰めていきたいところだ。
続くSS2、SS3と快調にクラストップタイムを記録する毛受・赤木組に対し僅差で続く中溝だが、あと一歩及ばずその差は5秒に広がる。セクション1最終となるSS4、午後に繋がる大事なSSとなるが、ここでついに中溝・能仁組が1.3秒上回る走りを見せる。
ポジティブな結果を出して戻ってきた中溝・能仁組に対し「やれることをすべてやる」と応えるサービスクルー達。装備品や部品の見直しなど、時間一杯まで作業を行い可能な限りのサポートを行う。
そして迎えたセクション2。中溝組から追い上げを感じながらも、毛受・赤木組は落ち着いた走りを見せる。そして迎えた中溝組のアタック。ショートSS故にタイム差をつけるのは難しいが、サービスでの作業とクルーの努力が形になり、自身のSS2のタイムから2秒タイムアップ。先程の毛受組からも1秒タイム更新してのフィニッシュとなった。固唾を飲んでこの走りを見守っていたサービス員達も沸き立つ。これにより差は2.8秒。逆転の射程範囲内に入った。なお、この2組の争いはCUP2クラスの86のみならず地区戦の強豪達にも割って入るものとなる。
最後の林道SSとなるSS6。毛受が冴えた走りを披露し、自身のタイムを7秒短縮する。ここで離されるわけにはいかない中溝・能仁組。さらに最後の攻めたアタックを開始するが、勢い余ってガードレールにヒットしてしまう。なんとかフィニッシュまでたどり着くことはできたが、残念ながらリタイヤとなってしまった。そして迎えた最終SS。毛受のコ・ドライバーの赤木が「もう勝利は決定してるのでセーブして走るように提案したんですが、完全にスイッチが入ってしまったようで…もう止められないです」と語った通り、SS7もハイペースで走りきり見事クラス優勝。開幕戦から3連勝となり、チャンピオン獲得に事実上の王手をかけることとなった。
本戦においても、世界最大級オーディオメーカーで、家庭用オーディオ、ホームシアター、車載用などの民生機器から、世界中の映画館、スタジアム、レコーディングスタジオなどを対象とした業務用機器をラインナップするJBL(ハーマンインターナショナル株式会社、東京都台東区)からパートナーシップを受け、優勝クルーおよびU-25 AwardのクルーにはJBL製ヘッドフォンが賞品として贈呈された。
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次戦は7月20日に高知県で開催される「四国のてっぺんラリー2019in嶺北(公式サイト) 」。TRD RALLY CUP by JBL 初のグラベルラリーとなるが、チャレンジングなコースになることが予想される。高木・安藤組という強力なライバルが登場しシリーズポイントの行方が分からなくなってきたCUP2クラス。グラベルを得意とする吉原は「今回は不完全燃焼でしたが、次こそ絶対勝ちます!」と初優勝を宣言。その吉原か、奥本がシリーズチャンピオンを決めるか、はたまた巧者・高木がその実力を見せつけるか。混戦必至の86決戦に注目が集まる。
※イベントレポートという性質上、文中で敬称を略して表現している個所があります。